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サステナビリティ経営の専門家が語る「人的資本経営」とは〜人的資本経営のトレンドと実現に向けたカギ

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サステナブル・ラボ株式会社 Chief Financial Officer

一般社団法人 Fintech協会 常務理事

貴志 優紀

2008 年ドレスナー・クラインオート証券に新卒入社後、2009 年にドイツ証券へ転職。バリュエーション、新規業務プロジェクト等に従事。 2018 年にPlug and Play Japanへ入社し、Fintech 及び Brand &Retail 部門を管理。2022 年に非財務データ可視化事業を行うESG スタートアップのサステナブル・ラボ株式会社にChief Financial Officerとして参画。英国ロンドン大学クイーンメアリー校経済学部卒、英国ケンブリッジ大学MBA 修了。

2023年2月に、アルムナイと企業人事の皆さま向けにイベントを開催しました。(※継続学習と異業種の次世代リーダーとの出会いを目的として、ファカルティや修了生による勉強会イベントを定期開催しています。)

第3回目は、サステナビリティ経営の専門家である貴志氏をお招きし、『サステナビリティ経営の専門家が語る「人的資本経営」とは〜人的資本経営のトレンドと実現に向けたカギ』をテーマとしてプレゼンテーション、トークセッションを開催しました。

​以下、イベント内容を一部抜粋してご紹介しています。

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ヨーロッパでは非財務情報の開示が当たり前?!ーー人的資本経営のトレンド

 

​​近年、非財務情報を積極的に開示していく傾向があります。ヨーロッパは日本の数年先を行っています。開示項目が示唆されていたり、上場企業のみならず、ある程度の年商規模の企業は、非財務情報を開示するのが当然です。

 

日本でも今年2023年の3月期以降の決算から、まずは上場企業から非財務情報を開示することになっています。いずれは様々な規模の企業も非財務情報の開示を行い、人材投資に対する意識も高まってくるでしょう。


 

今、なぜ“ヒューマンキャピタル”への関心が高まっているのか

 

様々なデータを見ている中で、社員研修費用は損益計算書の費用項目に計上されるため、従来の財務指標で捉えることができます。しかし、非財務と呼ばれる「社内人員の多様性を高めたことでイノベーションが起きやすい組織体制になり、収益貢献が高まった」ということについては、直接的に財務情報で捉えることができません。

 

2020年以降、COVID-19によって企業は様々な非常時の対応に迫られました。その際、社員の柔軟性やレジリエンスと言われる困難な状況での適応力や対応力、回復力が、企業の収益因子や回復に繋がったという事例がアメリカ等国内外で見られています。

 

財務情報に現れない、この人的資本の強さが“ヒューマンキャピタル”なのです。

こういった時代背景だからこそ、より“ヒューマンキャピタル”への関心が高まっています。


 

機関投資家と企業の間に生じる「人材投資への意識の差」

 

機関投資家と企業の“人材投資に対する意識の差”について、スライドを用意しました。

上場企業は常日頃から投資家からの見え方を気にしています。近年、投資家も非財務情報の中の特に「人的資本マネジメント」や、それに対する投資である「人的資本開発」を重視しています。

 

ただ、図の右側、上から三つ目の企業が重視しているものと投資家が重視しているものにギャップがあります。投資家は企業が「どれだけ人材投資を行っているか」を重視していますが、企業は人材投資よりも「DXなど設備投資」を重視しています。ここは、企業と投資家によって認識が大きく異なるということがファクトとして見て取れます。

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「目に見えないもの」にも存在するダイバーシティ

 

今後の日本企業にとって、ESGのS項目の中の「ダイバーシティの実現」が極めて重要です。

ダイバーシティーの分類法の一つとして、「目に見えるもの」と「目に見えないもの」の二軸で分けることができます。「目に見えるもの」は、性別や年齢、人種、言語や国籍等です。「目に見えないもの」は、教育や職務経歴、勤続年数、経験、知見、スキルレベル等です。

 

今後の日本企業にとって、「目に見えないもの」にもダイバーシティが存在するという認識や理解が重要な論点となります。


 

「多様性」が「財務」に与えるインパクト

 

弊社で日本国内の情報通信サービス企業のみを抽出して、過去7年のデータを分析を行ったところ、因果関係について一つわかったことがあります。女性管理職比率が増えれば、3〜4年後の株価収益率に正の相関があり、自己資本比率、利益率にも様々なパスを通じてインパクトを与えます。正確な理由まではわからないのですが、おそらく女性が増えることで、こまめに電気を消すなどコスト意識が高まり、利益率が高まったのではないかと推測しています。

リーマンブラザーズ」が「リーマンシスターズ」だったら、

リーマンショックは回避できたのか?

 

ガバナンスに紐づくコンテキストの例として、「女性のCFOを有する企業は会計の質が高い」ことが実証実験でもわかっています。また、取締役会の性別多様性が高い企業ほど、環境問題に対する訴訟リスクが少ないことも報告されています。

 

Oxford University Pressに記載されたレポートでは、2008年のリーマンショックは、リーマンブラザーズが倒産して金融危機の引き金となりました。このリーマンブラザーズは、ご承知のようにブラザーズ、男兄弟です。仮に女性がいたらどうだったのでしょう。「リーマンシスターズ」や「リーマンブラザーズ&シスターズ」であれば、もしかしたらリーマンショックを回避できたのではないかとの議論が真面目になされています。


 

「インクルージョン」なくして「ダイバーシティ」は機能しない

 

ダイバーシティの推進には、会社の文化やコンテキストが強く関係しています。ダイバーシティのある組織を作っても、そこに「インクルージョン」の要素がなければ、ダイバーシティは機能しません。つまり、ダイバーシティ推進は、会社の組織構成や職場環境の見直し等、ガバナンス改革も一体となって推し進めることで、「心理的安全性」を作っていく必要があります。


 

ダイバーシティを実現するためのカギとなる「心理的安全性」

 

Googleのレポート結果でも心理的安全性の高いチームの方がハイパフォーマンスを上げているように、心理的安全性は組織に学習やイノベーション、成長をもたらすと言われています。

心理的安全性をつくる上で、リーダーやリーダーを取り巻くチームメンバーの振る舞いは非常に重要です。それ以外にも、明確な目標や頼れる仲間、パーパス、その仕事に影響力があるという信念が土台となって、心理的安全性が作られます。この心理的安全性が、ダイバーシティを実現するための重要なピースとなるのです。


 

「多様性から生まれる声」が、経営にもたらすもの

 

ダイバーシティは多様な経営の根幹を成しています。

図にもある、TCFDはTask force on Climate-related Financial Disclosuresの略で、気候関連財務情報開示タスクフォースです。これは各企業がどれだけCO2を出しているのか、どれだけ環境にいいことをしているのかといった気候変動への取り組みを表しています。

 

このデータから、取締役会の女性比率が高ければ、2017年頃から気候関連の情報開示に先行して取り組んでいることがわかります。逆に、女性比率が低いところは、最近になって情報開示を始めています。情報開示が必須となる前段階から多様性があることで「先に開示しておいた方が良いのではないか」という声が上がりやすいのではないかと考えられます。先行した情報開示により、より投資家から選ばれやすくなるのです。

 

VUCAを乗り切る上で、組織に必要な文化とは?

 

ハーバードビジネスレビューの調査で、ダイバーシティー&インクルージョンを備えた組織には、“学習志向の文化”が根付いていることがわかりました。“学習志向の文化”とは、柔軟性やオープンマインドといった、新しいことや変化を受け入れる文化です。

 

新しいアイディアや失敗の許容、型にはまらない思考力、リスクテイクの姿勢など、物事の見方を変化させていく“学習志向の文化”が、今日の不確実性の高いビジネス環境を乗り切る上で必要です。

 

今日一番伝えたかったことは、人的資本経営の中でも一番大事なことは「ダイバーシティの観点」で、そのダイバーシティを実現するためには「心理的安全性」が重要だということです。


 

ここからは、参加者からの質問を交えながらトークセッションが展開されました。

 

投資家と企業の意識の差について「人材投資」に対する乖離があるというのは興味深いです。

なぜ企業側は人材投資への意識が低いのでしょう。(質問者:T氏)

 

Yuki :投資家は中長期的に物事を見て、将来からのバックキャストで考える人たちが多い印象です。それに比べて企業は、まず足元のやらなければいけないことを考えて、人的投資に取り組む手前で、ITや設備投資といった業務の効率化に意識がいくのではないかと思います。



 

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この他にも、日本におけるSDGs8番、9番観点での議論の重要性、ケンブリッジ大学のノーベル賞受賞者数に多様性が影響している話など、グローバル最前線で活躍されているYukiさんのリアルな話を存分に伺うことができました。

 

参加者からは、人事として人的資本経営に取り組む中での課題感やジレンマなど、Mnagaing Complexityで学ぶ「Learning Outcome」との接続を意識した質問や感想が多く寄せられ、学んだ知識の定着、そして継続学習の場として満足度の高い催しとなりました。

それでは、次回以降の開催もお楽しみに!

Alumni Event Report 03

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