「わかりあえなさ」とどう向き合うか。
卒業生による実践プログラム「ADAPT in KOZA」体験レポート
雨が多く、観光業者に忌み嫌われる沖縄の6月。じめっとした空気が沖縄市・コザの街を包む。コザは沖縄市の中心に位置し、米軍嘉手納基地の門前町として栄え、アメリカ人を対象にした飲食店、ライブハウス、バーなどが多く立ち並ぶ海外のような雰囲気が漂う多国籍なエリア。
今から「学び」が詰まったプログラムが始まるとは微塵も感じさせないようなこの場所に、米国ミネルバが展開する社会人向けプログラム「Managing Complexity」の卒業生が全国各地から集結した。目的地は、沖縄市・コザのスタートアップ商店街の本拠地「Lagoon」だ。
ADAPTとは
地域・社会課題をフィールドにした実践型ラーニングプログラム「 ADAPT(Action Development for Advanced Practice of Thought-tools)」は、Managing Complexity(以下MC)で学習した18個のLOs(Learning Outcomes)を駆使して、複雑な課題にインパクトを残す2泊3日のプログラム。
今回の複雑性にあふれたテーマとして設定したのは、『スタートアップ商店街コザのVision「世界にイノベーションを起こす挑戦者を生み出す商店街」実現を目指し、地域に新たなインパクトを作る。』
ADAPT inコザでは商店街を中心にスタートアップエコシステムの立ち上げに奔走する豊里氏をテーマオーナーに迎え、開催が実現した。テーマオーナーには現地で取り組む活動でリアルな問題をテーマとして設定いただき、最低限の背景情報をインプットしてもらった上で、最後にはオーナー宛にテーマに沿ったアイディアの提供をGOALに置いている。
テーマは非常にざっくりしている。これは、ありたい姿や現状定義はもちろん、プロブレム自体の設定から取り組んでほしいという豊里氏のリクエストを尊重した。起業家は強い信念を元に課題にチャレンジしていく一方で、第三者のフラットな意見に触れる機会がすくなくなってしまう。ADAPTの参加者は複雑性に対峙する学習をしてきたMC卒業生であり、バックグラウンドがバラバラである。あたらしい目で取組みのフィードバックを求めている豊里氏のニーズとも噛み合った。
ADAPTのラーニングデザインにおける5つのこだわり
ADAPTの特徴は、ミネルバ発「学習の科学」とKOKKARAが対話型の場作りで培った内省を混ぜ合わせた学習デザインをしている点だ。プログラム設計には、以下の5つの観点で学びの創発を工夫した。
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Think it through:考え抜けるか。時間があれば良いわけではない。緩急が大事。詰めるときには詰める。2泊3日という短期間を利用する。
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Make it Association:関連づける。経験を何かに紐づけられるか。無理やりでも紐づけると引出しやすくなる。発見を仕事に紐づける問いを出す。
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Liminality:閾値、変化のはざま、現実と夢のあいだみたいなニュアンス。プログラム中に不思議な感覚を体験できる設計になっているか。
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Wholeness:全体性、歴史性を重視する。目の前と人生・テーマとのつながりを魚の目で見られているか。Not Snapshot。1シーンで語れないように。
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Reflexivity:再帰性、誰かのことを言っている自分もその対象になりうること。学ぶ力の原点。常に起こった現象をリフレクティブにとらえる癖を。
この5点は現地フィールドの選定基準、プログラム構成、順番、ワーク毎における問いの出し方など様々な部分であみこまれている。特に、沖縄の課題解決とじぶんの仕事を意識的に紐づけてもらうために、ファシリテーターが頻繁に問いを投げかける。
「今日の学びを職場で実践するには何が邪魔しますか?それをとりのぞくためにできることは?」
ADAPTの全体像、6STEP。そしてSTEPは蛇行する。
先述した5つをもとに、2泊3日の具体的なプロセスを6つのSTEPにブレークダウンして当日は進行した。STEP毎にインプット・アクティビティ・リフレクションの3つが存在し、さらにSTEPはなんども戻る必要がある仕掛けだ。この往復作業の中で複雑な課題の解像度を高めていく。参加者は1歩進んで2歩さがる選択を自らとる必要に迫られ、リーダーとしての勇気を問われるシーンに遭遇する。
<6つのSTEP >
(1)Purpose/すべての起点はWHY。
地域でスタートアップコミュニティを耕す豊里氏の想いに触れる。なぜKOZA なのか、どんな機会と阻害要因があるのかを本人の視点で語り、信念と動機、目的をおさえる。
(2)Problem Analysis/自分ごとでは気付かない。他人ごとの価値を出す。
第三者の目線が提供価値の一つ。Complex な問題に対してGAP 分析は相性が悪い。でもそこがミソ。システム思考を使う前に、AS-IS、To-BE、制約条件と阻害要因を分けて議論し、グループの中で一旦仮置きした上でシステム系を捉える。
(3)System Decompose/システム思考で問題の裏側の問題まで覗く。
システムの分解から始まる。システム全体をつくる要素(エージェント)を洗い出し、制約を制約たらしめているシステムや登場人物のメンタルモデルを想像する。解決策ありきではなく、このシステムを眺め続ける。
(4)Field Work with managing Bias/街にダイブする。
システムループ図と代表の強い想いをホールドしながら、街に飛び込む。エージェントの解像度を高め、偶然の出会いから重要なインサイトを引き出す。「商店街」とラベルしていた対象が、「〇〇店の●●さん」といっきに解像度を高める。
(5)Innovation MindSet/自由に発想する。
「問い」の設定に時間をかける。ここが知恵の出しどころ。可能性を開くような問いの設定に全員で挑戦し、その後、「Crazy8」(1 分間に1 アイディアを強制的に書く発想法)を実施。最後の方は苦しい・・が、制約がユニークネスを生むことも。
(6)Communicating with Impact /アイディアをシェアする
エトス・パトス・ロゴスを使い分け、Dual Coding を効果的に使用し、非言語表現や繰り返しなどもチェックポイントにもうける。参加者のクレイジーさから、発表残り5 分で即興漫談の練習がはじまるなど、様々なチャレンジが起こる。
最終提案から見えてきたもの
最終提案の詳細はここでは取り上げないが、2チームに共通していたのはKOZAに時代を超えて存在し続けているクラシック商店街や自律的に創業をはじめている個人商店のプレーヤーを巻き込んだ施策だった点だ。スタートアップに閉じず、この街ならではの魅力を最大限活かす提案がなされた。
スタートアップエコシステムが日本中で立ち上がる中、この「土地性」を横に置いたほうが常識的な仕組みは確立しやすい。しかし、あえて歴史と現地が持つ強みをエコシステムに取り入れ、他のスタートアップ都市とは一線を画す可能性がコザには確かに存在していた。それこそが「挑戦する」人を惹きつけていく魅力なのではないだろうか。現地にダイブすることで、その可能性を強く盛り込んだ提案になったのは土地の魅力を第三者の目で味わえた証拠だといえる。
ADAPTチームの学びの結晶化
「地域の声に耳を傾けるだけでは、インパクトはうみだせない。」
「創発現象はデザイン不可能。創発現象が起こる可能性をあげる動きを起こす。」
これらは参加者の学びの声のほんの一部。単にフィールドに出かけて、街の人に耳を傾けても今回は意味がなかっただろう。ロジカルに現状を整理し、システム思考で現象の作用反作用の全体像の仮説を置き、登場する人物の解像度を上げ、ひとりひとりが語るセリフの奥にあるメンタルモデルまでしっかりと耳を傾けられてはじめて具体的で思いが乗った打ち手が湧いてくる。
時間をかけてMCで学んだハッシュタグを意識して使いながら、単にインサイトを掴むのではなく、システム図のなかのどの要素(Agents)が、どんな行動を起こすか・どんな考えをしているのかを想像しながら聴ける。つまり、個人の想いに触れながら、システム全体の挙動への影響をチームでイメージしながら議論するという進め方は、明らかに日常業務と異なる部分だっただろう。そして、その学びは参加者によって確かに現場に持ち帰られた。
次回もこんなチャレンジをおこしていきたい。
Adapt Report 01